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こんにちは。脳卒中のリハビリテーション(理学療法)を専門に行っています、
理学療法士の牧野真也(まきのしんや)です。
皆さん、“脳卒中”をご存知でしょうか?
最近では、テレビなどでも当たり前に聞かれるようになり、恐らく知らない方が珍しくなってきたように思います。
以前は、高齢者に多いように言われていましたが、最近では働き盛りの40代や50代、さらに30代の方でも発症する方が増えてきています。このように脳卒中はもはや他人事ではなくなってきているんですね。
今回は、脳卒中について、その中でも特に多くみかける脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血の原因と症状について、テレビでは聞けない、少し専門的な部分も含めてわかりやすく解説していきます。
《目次》
1 脳卒中ってどんな病気? 2 日本の脳卒中の現状と患者の動向 3 脳卒中ってどんな種類があるの? 4 脳卒中の原因とは? 4-1 脳梗塞の原因 4-2 脳内出血の原因 4-3 くも膜下出血の原因 5 脳卒中の症状とは? 6 脳卒中にいち早く気付くためには? ☆脳卒中のチェックポイント 7 脳卒中かと思ったら? 7-1 早期治療が大原則 7-2 意識がある場合の対応 7-3 意識がない場合の対応 8 知っておきたいTIA(一過性脳虚血発作) 9 脳卒中になったらどこに行けばいいの? 10 リハビリテーションの大切さ 11 まとめ
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1 脳卒中ってどんな病気?
皆さんは、「脳卒中ってどんな病気?」と聞かれたらどのように答えますか?
簡単に説明すると、脳の血管が詰まったり破れたりする病気です。
脳卒中の症状は主に3つで、
①手足の麻痺
②言語障害(言葉が出なくなる)
③認知障害(いわゆる認知症のような症状)
が代表的なものになります。
この脳卒中は、かつては死因の第1位だったんですが、医療の進歩などにより2015年現在は第4位となっています(図1)(参考文献1)。
ただ、介護が必要となった疾患の原因では第2位(2016年)であり、全体の約17%を占めています(図2)(参考文献2)。
つまり、脳卒中になると、手の動かしにくさや歩きにくさなどの後遺症により、食事や家事などの日常生活だけでなく、お仕事や趣味なども制限される可能性が高い病気なんです。
図1 死亡者数の年次推移(2015年)
図2 介護が必要となった原因(2016年)
2 日本の脳卒中の現状と患者動向
2014年現在、日本の脳卒中患者数は約120万人と言われております。
その数は年々増えていて、2020年には300万人を超えると予想されています(図3)。
図3 脳卒中患者数の動向
また、死因別死亡数の割合をみると、がん、心臓病、肺炎に次ぐ4位で、全体の約9%(約12万3千人)の方が、脳卒中で亡くなっていることがわかります(図4)(参考文献1)。
図4 死因別死亡数の割合(2015年)
さらに、寝たきりになる原因としては、第1位が脳卒中であり、約31%をも占めています(図5)(参考文献2)。
図5 寝たきりになる原因(要介護5)
つまり、死亡者数こそ医療の進歩の甲斐あって、徐々に減少してきていますが、重度の麻痺や意識の障害などにより、生活が著しく制限される可能性が一番高いということなんです。
3 脳卒中ってどんな種類があるの?
脳卒中には大きく分けると3つの種類があります。
それは、
- ① 脳梗塞
- ② 脳内出血
- ③ くも膜下出血 です(図6,7)。
図6 脳卒中の分類
図7 くも膜とくも膜下腔(くう)
脳の表面は内側から軟膜、くも膜、硬膜という3層の膜に覆われてる。
くも膜下腔(くう)(くも膜と軟膜の間)に出血するものをくも膜下出血という。
私たちの脳(脳の細胞)は血管から栄養をもらって働いています。
でも、先ほどお話したように、脳の血管が詰まったり、破れたりすることで、血流が途絶えた脳の細胞は死んでしまいます。
そのため、いろんな症状が出ることがあります。
これから、そのことについて詳しくお話していきますね。
4 脳卒中の原因とは?
脳卒中の原因には、
① 高血圧
② 糖尿病
③ 脂質異常
④ 心房細動
⑤ 生活習慣(喫煙、大量の飲酒、肥満、運動不足)
によるものが考えられています。
中でも、高血圧が重要な原因と言われています(表1)(参考文献3)。
表1 脳卒中の原因となる病気
ここからは、脳卒中の代表的な脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血の3つの病気について、原因と症状を詳しくお話していきますね。
4-1 脳梗塞の原因
脳梗塞には3つあります。その3つとは、
- ① アテローム血栓性脳梗塞
- ② 心原性脳塞栓症
- ③ ラクナ梗塞 です。
少し聞きなれないかもしれませんが、順に解説していきますね。
○アテローム血栓性脳梗塞の原因
アテローム血栓性脳梗塞は、高血圧や糖尿病、脂質異常、喫煙、大量の飲酒などが原因(表1)となり、眠っているときに発症し、起きた時に気付くことが多いと言われています(参考文献3)。
皆さん、動脈硬化という言葉はご存知なのではないでしょうか?
動脈硬化とは血管が硬くなったり、狭くなったりする病気です。コレステロールの高い食事や大量の飲酒などで、血管内にプラーク(コレステロールがたまって硬くなる)が出来ます。
このプラークなどにより狭くなった血管に、血栓という血の塊が壁をつくり、徐々に血管が詰まっていきます(図8)。
図8 アテローム血栓性脳梗塞
このため、発症した時は手足の動かしにくさが少しあるくらいだった症状が、翌日になるとさらに動かしにくくなったりすることがあります。
ですから、栄養を考えた食事や、適度な飲酒など、普段からの生活を見直すことにより、動脈硬化を予防することが大切になってきます。
○心原性脳塞栓症の原因
心原性脳塞栓症は、心房細動などの心臓病が原因となり、起きている時に突然発症することが多いとされています(表1)。
心房細動などにより、心臓のリズムが乱れることで、心臓で大きな血の塊(血栓)が出来、その血栓が剥がれて、脳に流れていき、脳の血管に蓋をしてしまいます(塞栓)。
心臓でできた血栓は比較的大きいため、脳の血管の根元で詰まると、広い範囲の脳梗塞を起こしてしまいます(図9)。
そのため、手足に強い麻痺が出たり、感覚の麻痺、言葉が出ない、飲み込みが悪くなるなど多くの障害が出現することが多いと言われています(参考文献3)。
図9 心原性脳塞栓症
○ラクナ梗塞の原因
ラクナ梗塞は、枝分かれした15mm未満の小さな血管が詰まることで起こる、小さな脳梗塞です(図10)。
高血圧が続くことで、血管の内側が変形したり詰まったりする(コレステロールがプラークになる前のやわらかい状態)ことで起きます。
死亡するリスクは比較的少なく、手足の動きや感覚などの麻痺は少ないなどと言われています。
図10 ラクナ梗塞
4-2 脳内出血の原因
次に脳内出血の原因について解説します。
脳内出血の主な原因は高血圧であり、生活習慣との関わりが多いとされています。出血する場所や大きさによって異なる症状が出現することがあります。
最も多いのは、被殻(ひかく)という部分からの出血で、脳内出血全体の40%を占めています。
次に視床(ししょう)からの出血で30%、次いで、脳幹(のうかん)・小脳(しょうのう)・皮質下(ひしつか)という部分からの出血がそれぞれ10%となっています(図11)(参考文献3)。
図11 脳内出血が起こりやすい場所
4-3 くも膜下出血の原因
3つ目がくも膜下出血です。最近テレビでもよく報道されるようになりましたね。
くも膜下出血の80%以上は脳動脈瘤という脳動脈のコブの破裂が原因であり、バットで殴られたような突然の激しい頭痛や意識を失うこともあります。一般に社会復帰できる方、重度の後遺症が残る方、死亡する方の割合が、おおよそ1/3ずつになるといわれるほど非常に危険な病気です。
また、再出血や脳血管攣縮(れんしゅく)、正常圧水頭症などの合併症を起こしやすく、重度の後遺症を残す可能性があるとされています(表2)(参考文献3)。
表2 くも膜下出血後の合併症
図12 脳脊髄液と正常圧水頭症
やっかいなことに、脳動脈瘤は通常のCTやMRIでは発見が難しいため、脳ドッグなどで脳血管撮影を受ける必要があります。まずは、お近くの医療施設にご相談ください。
5 脳卒中の症状とは?
脳卒中でよくみられる症状を表3にまとめました。
中でも、頭痛や意識障害は脳内出血やくも膜下出血で、片麻痺、構音障害、失語症は脳梗塞、脳内出血でよくみられます(参考文献3)。
表3 脳卒中でよくみられる症状
また、脳の場所(図11)によって特徴的な症状が出現することがあります(表4)。
表4 特徴的な症状
6 脳卒中のチェックポイント
次のような症状が一つでも現れたら、脳卒中の可能性があります!
明日まで待たずに、すぐに専門病院を受診しましょう!!
- □片側の手足に力が入らない
- □物をつかんでも落とす
- □足がもつれる
- □顔や手足がしびれる
- □触れた感じがわからない
- □手袋や靴下をつけている感じがする
- □ろれつ(舌)が回らない
- □言葉がうまく話せない
- □突然激しい痛みに襲われる
- □意識を失う
- □意識もうろうとなる
- □物が二重に見える
- □左側半分が見えない
- □視野が狭くなる
- □突然吐いたり、吐き気を催す
7 脳卒中かと思ったら?
7-1 早期治療が大原則
脳卒中により、脳の細胞は血液からの栄養が完全に途絶えると、約4~10分で死んでしまいます(参考文献3)。
つまり、時間が経てば経つほど、症状が進行してしまいます。
ですから、ダメージを最小限に食い止める為にも、一刻も早く治療を開始する必要があります。
これは脳梗塞の場合ですが、発症後4.5時間以内であれば、血栓を溶かしてくれる薬も使用されてきています。これで、症状が劇的に改善することもあります。
しかし、何度も繰り返しになりますが、そのためには脳卒中に早く気づくことが絶対条件です。
7-2 意識がある場合の対応
先程の脳卒中のチェックポイント(6参照)に当てはまる症状に気づいたら、まずは周囲に助けを求めましょう。
ポイントはご自身で判断しないことです!
一刻も早く治療を開始するためにも、迷わず救急車(119)を呼びしましょう!!
7-3 意識がない場合の対応
もし、呼びかけたり身体をゆすったりしても反応がない場合は、意識を失っていると考えてください。その場合、危険な場所でない限りは、身体や頭などを安易に動かさない方がいいでしょう。
まずは周囲の方に助けを求め、救急車を依頼しましょう。
同時に気道を確保し、呼吸状態を確認します。もし、心肺停止を起こしていたら、心臓マッサージを行いましょう。
8 知っておきたいTIA(一過性脳虚血発作)
ここまでは脳卒中の原因と症状についてみてきました。もう一つ知っておきたい病気があります。
それは、TIA(一過性脳虚血発作 いっかせいのうきょけつほっさ)といわれるものです。
TIAは、一時的に血管が詰まり、手足の脱力や麻痺、しびれなどの症状が出ますが、24時間以内に症状が消失するものをいいます。多くは数分~1時間で血流が回復し、症状も消失するとされています。
ですから、脳梗塞と違って、脳細胞は死んではいないのですが、一時的に脳細胞が栄養不足となり、脳卒中と同じ様な症状が出てきます。
ここで、気をつけていただきたいことがあります。
それは、症状が改善したからといって安心してはいけません。
このTIAが出現すると、2日以内に5.3%、90日以内に15~20%の方が、脳梗塞を発症する可能性があるとされています(参考文献3)。
つまり、アテローム血栓性脳梗塞になりかけていることを意味していますので、非常に危険な状態です。
ですから、治ったから大丈夫とご自身で判断せず、早急に受診されることをおすすめします。
9 脳卒中の場合に受診すべき病院とは?
以上のような症状があり、脳卒中が疑われる場合は、下記の専門的な病院を受診してください。
- ○ 脳神経外科
- ○ 神経内科
- ○ 脳卒中センター
脳卒中になってから病院を探すのではなく、もしもの場合に備えて、予め上記のような、脳卒中の専門病院を探しておくといいと思います。
そして、病院の電話番号などを書いたメモを電話のそばなど、目につくところに貼っておきましょう。
さらに、そのことを家族にも伝えておくと万全かと思います。
10 リハビリテーションの大切さ
さいごに、リハビリテーションの大切さについてお話します。
脳卒中を発症すると、まずは点滴などの治療、必要時は手術などを行います。
もし、片麻痺や言語障害などの症状が出た場合は、治療と併行してリハビリテーションを行っていくことになります。
リハビリテーションでは、生活ができるように、お身体の動きの回復目指していきますが、そのためには、いくつかの条件が大事であると言われています。
それは、
○ 運動
- ○ 豊かな環境
- ○ 意欲
- ○ 動機づけ などです。
これについては、動物実験ではありますが、マウスを豊かな環境下(複数のマウスや多くの遊具を与えた状況で生活)で活動させると新しい神経細胞が増えることがわかっています(参考文献4)。
これは、運動=リハビリテーション、豊かな環境=リハビリテーションを行う専門家(セラピスト)、意欲・動機づけ=目標(こうなりたい)と置き換えることができます。
つまり、やみくもに運動をすればいいというわけでなく、専門のセラピストと一緒に、明確な目標をもって、“適切な”リハビリテーションを行う必要があるということです。
適切とはどういうことかと言いますと、例えば、散歩をしたいという目標があるとします。でも、座ることが難しいのにいきなり外を歩く練習をしても、歩けるようになるでしょうか?恐らく難しいと思います。
かなり極端な例ですが、このような場合は、例えばまずは座れるようになることや、立ち上がれるようになることなど、段階的に行っていく方が、良いのではないでしょうか。
つまり、セラピストとともに、ご自身に合ったオンリーワンのリハビリテーションを行うことが、脳卒中からの回復へと導いてくれると鍵となります。
11 まとめ
皆さん、いかがでしたでしょうか?
今回は脳卒中の中でも、脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血について、原因と症状、脳卒中のチェックポイントやその対応について解説してきました。
さらに、脳梗塞にはTIA(一過性脳虚血発作)という前兆があり、見過ごさないことや早く治療を開始することが非常に大事であることも理解できたのではないでしょうか?
これから脳卒中はますます増えていくと予想されています。つまり、脳卒中は、もはや他人事ではありません。
ですから、適切な知識を持って、迅速な対応が重要になってきます。
その為には、やはり一刻も早く脳卒中に気づくことが大事になります。
ご自身で注意することは勿論ですが、もし周囲でそのような方がいらっしゃったら、すぐに救急車(119)を呼んでくださいね!!
この記事が少しでも皆さまのお役に立てれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
参考文献
(1)厚生労働省:人口動態統計
(2)厚生労働省:国民生活基礎調査の概況
(3)医療情報科学研究所:病気がみえるvol.7 脳・神経 第1版:P60-159,MEDIC MEDIA,2011
(4)奈良 勲 監修:標準理学療法学 専門分野 神経理学療法学:P27-28,医学書院,2013


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