

最新記事 by 西川 和宏 (全て見る)
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- 小脳梗塞の後遺症に対する3つのリハビリ内容 - 2018年2月24日
サイトにお越し頂きましてありがとうございます。
私は脳卒中のリハビリテーションに携わる仕事をしている理学療法士の西川和宏です。
今回は小脳梗塞の症状とリハビリのポイントについて解説していきます。
みなさんは小脳という場所や働きをご存知ですか?
大脳と小脳の働き方や症状には違いがあります。
小脳梗塞・小脳出血になると、「手足の震え」、「動き方がぎこちな」などの症状が現れます。これらの症状を総称して、以下の通り呼ばれています。
・ 協調運動障害〔きょうちょううんどうしょうがい〕
・ 運動失調〔うんどうしっちょう〕(以下:運動失調で統一)
今回は、小脳の働きや起こりうる症状を解説していきます。
その後に具体的な内容について脳のメカニズムから解説します。
・ 何に気を付けながらリハビリを取り組むのか
・ 日常生活でどのように過ごすべきなのか
この記事を読むことで、小脳梗塞・出血後のリハビリに役立てられる
脳のメカニズムと小脳に適したリハビリのポイントを知ることが出来て、
明日からのリハビリに実践していけます。
目次
・小脳梗塞のリハビリのポイント
【運動失調の改善にはかかせない運動の予測】
【運動失調の改善にはかかせない感覚の問題】
【小脳を意識したリハビリで差をつける】
・日常生活で実践できる具体的な小脳梗塞・出血のリハビリの方法
【コップを持つ動作】
【立ち上がる動作】
・動画でのリハビリ解説
・小脳梗塞の「働き」を知る
【手足を滑らかに動かすために運動を微調整する小脳】
【からだのバランスを調整するために学習する小脳】
・小脳梗塞の「症状」を知る
【大脳と小脳での症状の違い】
【小脳梗塞でみとめる運動失調とは】
・症状の改善を図るためには楽に動くための学習が重要
小脳梗塞のリハビリのポイント
この項では小脳梗塞のリハビリのポイントから紹介していきます。
ここで重要なことは、楽に動くためには運動イメージ(運動の予測)が大切だということですが、それに関しては、後半部分の記事『症状の改善を図るためには楽に動くための学習が重要』という項目で説明していたいと思います。
【運動失調の改善にはかかせない運動の予測】
私たちが自らの意思で手足を動かす際には、3要因からなるといわれています
(参考文献1)(図1)。
・ 筋出力のタイミング
・ 運動に用いる筋肉の選択と組み合わせ
・ 筋出力の程度の選択
しかし、小脳梗塞では3つの要因がうまく機能しにくくなり
余分な力が入って動きがぎこちなかったり
働かないでもよい筋肉まで余分に働いてしまう
というような運動失調という症状を呈します。
つまり、運動失調の改善に重要なことは、大脳の大雑把な運動の指令を滑らかな動きに調整するために、小脳によって「いつ働こうかな」「どの筋肉と一緒に働こうかな」「どのくらいの力加減で働こうかな」という予測を行います。
さらに、実際に動いてみたときに得られた感覚との違いを探しながら、次はどうすればいいのかなどを調整して新たな運動の指令を出す働きが重要となります。
【運動失調の改善にはかかせない感覚の問題】
小脳には運動や姿勢の調整に加えて、物体の素材の違いや重さの違いを判断するときにも活動するとされています(参考文献2)。
例えば、小さな段ボール箱を持ち上げるときがよい例です。
パッと見た目で小さいから軽そうだという予測を立ててダンボールを持ち上げます。
しかし、実際には小さい箱にもかかわらず、とても重たいものが入っていた経験などはないでしょうか?
本来は少しの力で持ち上がるはずなのに、持とうとした瞬間に予測していた重さと違うぞという判断を小脳が担っています。
その判断をもとに、この重さならこれぐらいの力の発揮が必要だということを再度小脳から大脳に指令を送り直して、力加減を変更して箱を持ち上げます。
(参考文献2)Gao JH et al:Cerebellum implicated in sensory acquisition and discrimination rather than motor control.Science272:545-547,1996.
【従来のリハビリと小脳を意識したリハビリで改善に差をつける】
運動失調に対するリハビリの方法として、手首や足首に重錘や弾性包帯を巻いて、物理的な安定や関節の動きを動きにくくして、動きを制限した中での動作練習が行われています。
この場合も、重錘や弾性包帯を巻いた状態を継続した中で運動を行うだけでは不十分なのです。なぜなら、大雑把な動きは大脳だけでも可能だと伝えました。
そのため、小脳を意識したリハビリでは以下の点が重要となります。
・ 細かい動きや滑らかな動きの実現に向けて、運動イメージ(運動の予測)を行う
・ 運動イメージ(運動の予測)をもとに運動が滑らかにするための調整をすること
つまり
小脳梗塞や小脳出血になると、弾性包帯を巻いて体の動きを制限するだけでなく、
・ ゆっくりとした運動のほうが小脳は働きやすいこと
・ 単純な運動(肘の曲げ伸ばし)から
複雑な運動(コップをつかむなどの腕全体を動かす)へ展開していくこと
を推奨しています(参考文献3)。
今まで行ってきた一般的な動く練習や重りを持って筋力を鍛える練習だけではなく、普段の動かし方と何が異なるのかを注意しつつ単純な運動から段階的に複雑な運動へステップアップしていくことが重要となってきます。
次の項目で、単純な運動とはどういったものなのかを具体的な運動をお伝えします。
(参考文献3)森岡周:標準理学療法学 神経理学療法学:p110-123,医学書院,2013
日常生活で実践できる具体的な小脳梗塞・出血のリハビリの方法
さきほどのポイントに気を付けながら、
まずは優しく無理のない範囲での運動から実践してみてください。
動画でのリハビリ解説
【腕編】
【足編】
ここまでは、実践的なリハビリに役立てる考え方と方法について説明をしてきました。
この後の項目では、小脳梗塞・小脳出血で問題となっている
「小脳の働き」と「小脳疾患による症状」について説明していきます。
後半の記事を読まれることで、より小脳についての理解が深まり、
先ほどのリハビリ実践にも活かしやすい内容となっております。
小脳梗塞の「働き」を知る
大脳の神経細胞は約140億個とされていますが、小脳の神経細胞は約1000億個あります。
脳の大きさは大脳に比べ小脳は小さいですが、中に詰まっている仕事量は大脳以上に重要な働きを担っています。では小脳はどのような働きを担っているのでしょうか?
【手足を滑らかに動かすために運動を微調整する小脳】
大脳からの運動指令は大まかなので、動きも大雑把な動きとなってしまいます。
そのため、手足を滑らかに動かすために小脳が重要な働きをします。
小脳は、その大まかな運動を察知して、より細かでスムーズな動きができるように調整をしています。
【からだのバランスを調整するために学習する小脳】
身体が傾いているかどうかという平衡感覚と目で見た状況を合わせて処理して、どうすればバランスが取れるのだろうかということを、小脳が考えながら調整をしています。
つまり小脳は、からだのバランスのとり方を学習しているということですね。
小脳梗塞の「症状」を知る
小脳に損傷を受けると2つの動作が行いづらくなります。
・ 手足を滑らかに動かすために運動を微調整する働き
・ からだのバランスを調整する働き
そのため、物を手に取ろうとしたときには手がコップに定まらないことや立っていても身体が左右前後に揺れてしまいやすく、手すりから手を離すことも難しくなります。
これらが小脳に損傷を受けた後にみられる、運動失調と呼ばれている症状になります。
【大脳と小脳での症状の違い】
小脳梗塞も一般的な大脳で生じる脳梗塞・脳内出血と同様に脳の血管の一部が詰まったり、破れたりすることによって発症しますが、異なるのは症状です。
一般的な脳梗塞・脳内出血の症状は、運動麻痺・感覚障害・嚥下障害・高次脳機能障害などが後遺症として伴いやすくなります。
しかし、小脳梗塞の場合は運動麻痺や失語症などは伴いませんが、足が思ったように曲げ伸ばしができないために歩き方が滑らかでなかったり、何か物を取ろうと手を伸ばしても震えてしまい手の位置が定まらなかったりといった症状を呈するということになります。それが運動失調と呼ばれる症状です。
【小脳梗塞でみとめる運動失調とは】
例えば私たちは鼻がムズムズすると、大脳と小脳がともに働いていることで、迷わず鼻へ指を伸ばすことが出来ます。
しかし、小脳が損傷されると、大脳の働きで何となく顔には指が近づくけれど、指の位置を微調整する働きが低下しているために、鼻へピンポイントで触れることが難しくズレてしまいます。
つまり、運動指令として、鼻にリーチするという指令であっても、小脳が損傷してしまうと鼻にリーチしたいのに頬だったら、唇だったりと運動の微調整ができなくなってしまうのです。
足であれば、椅子から立ち上がろうとした際に、本来なら両方の足で体重を支えながら立ち上がっていますよね。
しかし、小脳が損傷されると、微細な動きを調整ができないために、立ち上がる瞬間に足の位置が左右バラバラでズレてしまったり、力の調整ができなくなってしまいます。
その結果、いざ立ち上がろうとしても、上手く両方の足で支えられず力任せになってしまい、滑らかさを欠いた立ち上がりになってしまいます。
Mr.Childrenのボーカルの桜井さんが2002年に小脳梗塞を発症されました。
復帰後に出演した歌番組では「助けを呼ぼうと携帯電話のボタンを押すがうまく押せなくなった」と倒れた時の様子を語っておられました。
つまり、これも思ったように手足を滑らかに動かせない運動失調の症状となります。
症状の改善を図るためには楽に動くための学習が重要
先ほどの「小脳梗塞の働きを知る」の説明でもあったように、小脳には運動を学習する働きがあります。
日常のたとえで説明すると、自宅の階段や職場の階段など何気なく昇降が出来ています。これらの段差は毎回高さや形状が違っているはずなのに、なぜ躓くことなく昇降が出来るのかというと「小脳の内部モデル」といわれる考え方が重要だとしています(参考文献4)。
分かりやすく説明すると、私たちは過去に歩いている途中でつまづいた経験があったときには、昔この場所でつまづいたから今回は足をもう少し挙げて歩こうといったように瞬時に注意をしながら楽に動くための体の動かし方へ変えることができます。
つまり、目で見た階段の段差に対して、「この段差の高さならこれぐらいの足の挙げ方でよいだろう」ということを小脳が分析・学習を行います。これがその後の運動に重要な運動イメージ(運動の予測)なります。
「この段差ならこの程度足を上げれば良いだろう」という運動イメージが大脳に送られて運動へと変換をしています。そのため、余分に足を挙げたりしなくても、スムースに省エネな身体の使い方で楽に段差の上り下りが可能になります。
つまり、小脳に損傷を受けると単に足の曲げ伸ばしや、手をグーパーする運動は可能です。
しかし、階段を昇ろうとした際に、上段の段差に足してどの程度足を挙げればよいのかといった運動イメージ(運動の予測)が立てられなくなります。
そのため、階段でも滑らかに足を挙げられず以下のような症状が現れます
・ 足を挙げすぎてしまったり
・ 逆にまっすぐ足が挙げられず大きく外に開きながら出してしまう
・ 足全体が力みながらフラフラと揺れてしまう
以上のことからも、小脳梗塞の場合にはただ繰り返し運動すれば良いのではなく、運動する前には「これからどのような順番で運動をするのか」、「どの程度の力加減で運動をするのか」といった運動イメージ(運動の予測)をしながら身体を動かすことが、小脳の活性化にも重要だということになります。
(参考文献4)kawato M et al:A hierarchical neural-network models for control and learning of voluntary movement.Biol Cybern57:1987
いかがだったでしょうか?
小脳梗塞・出血後のリハビリに役立てられる
脳のメカニズムと小脳に適したリハビリのポイントを知ることが出来ましたでしょうか?
リハビリは焦らず、ご自身の症状に合わせて徐々に進めていってください。
今回の内容は、自宅でも実践できる内容となりますので、
是非明日からのリハビリに実践してみてください。
(参考文献1)森岡周:標準理学療法学 神経理学療法学:p110-123,医学書院,2013
(参考文献2)Gao JH et al:Cerebellum implicated in sensory acquisition and discrimination rather than motor control.Science272:545-547,1996.
(参考文献3)森岡周:標準理学療法学 神経理学療法学:p110-123,医学書院,2013
(参考文献4)kawato M et al:A hierarchical neural-network models for control and learning of voluntary movement.Biol Cybern57:1987
(参考文献5)Kim SG et al:Activation of a cerebellar output nucleus during cognitive processing.Science 265:949-951,1994
(参考文献6)森岡周:リハビリテーションのための脳・神経科学入門:p57-71,協同医書出版社,2013


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